トモーヌのひとりごと

レゴや音楽、政治などを扱う雑記ブログ

ポイントではなく“株”を配る理由:カブアンドのマーケ設計を分解

導入:私たちは、前澤友作の「何」に違和感を覚えるのか

ZOZOの創業者として知られる前澤友作氏は、退任後もさまざまな取り組みを発信してきました。「dearMoon」計画や「お金配り」、近年は「カブアンド(株式会社カブ&ピース)」に注力しています。いずれも大きな注目を集める一方で、受け手によっては言語化しにくい“違和感”が生じる場面もあります。

本記事は、特定の個人・団体を非難する意図はなく、公開情報(公式サイトや説明資料等)を基に、主に「投資家」「マーケター」の視点から広告表現と設計上のリスク伝達に焦点を当てて整理するものです。なお、本記事は投資勧誘ではありません。


第1章:退任後の取り組みと発信の文脈

「dearMoon」については、事業側の事情により中止が公表されています。また、社会課題の解決を掲げた新規事業の中には、サービスの終了や見直しに至った例もあります。新規事業には挑戦と修正がつきものですが、プロジェクト継続性や運営方針の変化は、受け手の期待とギャップを生む要因になり得ます。

「お金配り」は、社会実験的な側面と同時に、関連アプリの利用が条件となる施策も見られ、**マーケティング的効果(ユーザー獲得・接点形成)**があったと評価する見方もあります。ここで重要なのは、善悪の判断ではなく、施策が“どう機能したか”を構造で捉えることです。


第2章:「カブアンド」の事業像 ― 製品ではなく“設計”の独自性

カブアンドは、電気・ガス・通信・ふるさと納税など生活周辺サービスを束ね、インセンティブとして自社株に関する権利(以下「種類株式等」)を案内する点に特徴があります。ここでの独自性は、プロダクトの技術差よりも、インセンティブ設計にあります。

事業モデルは、提携先のサービスを自社ブランドで案内する仲介・販売の色合いが強いモデルと理解できます。収益は一般に**手数料・継続利用によるLTV(顧客生涯価値)**に依存しやすく、広告費の置換としてインセンティブを配分する設計だと解釈できます。

投資家的な視点では、**大市場に対するスイッチング獲得の可能性(上振れ)**と、**巨人プレイヤーとの競争・資金負担(下振れ)**が併存する、いわゆるリスク・リターンのレンジが広い挑戦と評価するのが妥当です。個別の財務数字や将来見通しは、最新の公式開示で確認する必要があります。


第3章:「株を配る」という表現が生むギャップ

多くの読者が違和感を持ちやすいのは、「株を配る」という強いコピーと、実体が“条件付きの権利(種類株式等)”である点のギャップです。一般的な「株式(上場・売買自由・議決権あり)」を直感的に想起しやすい一方で、案内資料では譲渡制限・上場非保証・議決権なし・ロックアップ等の条件が示されます。

ここで押さえたいのは次の二点です。

  • リスク伝達の方法:重要条件が“打消し表示”や細則に委ねられると、受け手の理解に差が生まれやすい。

  • 支払い手段の非現金化:ユーザーは現金ではなく**時間(待機)・流動性(売りたい時に売れない可能性)・選択の自由(囲い込み)**といった形でコストを負担する場合がある。

広告倫理の観点では、強い訴求(「配る」「0円」等)と重要条件の明瞭性のバランスが問われます。ここが十分に整うほど、誤認のリスクは下がります。


第4章:法的には別物、表現上は似て見えやすい論点

いわゆる連鎖販売取引(いわゆるマルチ商法)とは法的構造が異なる一方で、**「夢や期待をフックに参加を促す」**という表現上の共通性を指摘する声はあり得ます。この記事では、類似点は“心理的フックの使い方”にとどまると位置づけ、両者を混同しないことを強調します。

また、著名人の発信力に依存した集客はキーパーソン・リスク(発信量・評判の変動が需要に影響)を伴います。これは一般論として、インフルエンサー×金融/投資系施策で共通するリスクです。


結論:ビジネスに錬金術はない—見えにくいコストを可視化して判断する

「みんなが得する」ように見える設計でも、原資はどこかで必要になり、誰かが何らかのコスト(現金・時間・流動性・データ・自由度)を負担します。カブアンドの文脈では、ユーザーは**“条件付きの権利”を長期保有する可能性サービス乗り換えの継続負担**を受け入れる代わりに、**将来の上振れ(上場等)**を期待する構図と整理できます。

重要なのは、広告ではなく一次資料(重要事項や規約)で判断する姿勢です。

  • 受け取る権利の実体は何か(普通株か種類株式等か)

  • 価値実現の条件と時点(上場・転換・ロックアップ等)

  • 退出コスト(売却・解約の容易さ)

  • 誰が、いつ、何で支払うのか(現金・時間・流動性・データ・自由度)

この4点を自分の言葉で説明できるなら、誤認は大幅に減ります。法の適合性広告倫理は別軸です。社会の信頼を得る設計は、強いコピーと同じ熱量で、リスクや条件を明瞭に語るところから始まる——それが本稿の結論です。

免責事項:本記事は一般的情報の提供を目的とするもので、特定の投資判断の勧誘・推奨を行うものではありません。個別の数値・条件は必ず最新の公式開示をご確認ください。